研究紹介-脳磁計(MEG)-

脳磁計(MEG) 先端電子技術応用研究所では、高感度な磁気センサの開発とその応用について研究しています。
天池自然学苑内のクリーンルームでSQUIDと呼ばれる薄膜デバイスを製造していますが、これを極低温(マイナス269℃)に冷やして超伝導状態にすることで非常に微弱な磁気を測定できるセンサになります。
この磁気センサを用いると、ヒトの神経や筋肉に流れる電流を体の外から非接触で検知することが可能になり、本研究所では横河電機やイーグルテクノロジー(金沢工大発のベンチャー企業)と協力して、脳機能の研究や診断に役立つ装置としてMEGの実用化に成功しました。

本研究所はMEGの応用研究のために海外の研究所と連携しております。ドイツ連邦物理工学研究所(PTB)、米国メリーランド大学(UMD)、米国ニューヨーク大学(NYU)、豪州マックウェーリー大学認知科学センター(MACCS)、イギリスのロンドン大学(UCL)、フランスの国立中央科学研究所(CBRS)などであります。
UMD、NYU、MACCSではヒトの言語認知のメカニズムを解明するのにMEGが有益であるとして研究を進めていますが、特にMACCSでは小児の時期に言語能力の発達が著しいことに注目し、小児専用のMEGを設置し、アリストテレース以来の長年の疑問「何故ヒトはかくも短期間に言語能力を身につけるのか?」に応えるべく研究を行なっています。


図3は文法に誤りのある文章の呈示に大 きな反応が出ることが分かった例であります。
反応部位は母国語が中国語の小児と英語の小児で同じであるなどの知見を得ており、今後のヒトの言語能力獲得のメカニズムの解明に役立つものと思われます。

また、平成16年度~平成20年度の文科省知的クラスター創成事業では、金沢大学の医学部と共同で、MEGを用いたアルツハイマー型認知症の早期診断プロトコルの開発に取り組みました。アルファ波などに着目して、患者76人、健常者109人の検査を行なった結果、高い正答率で患者と健常者を判別できるとの手応えを得ております。
被験者は横たわって頭をMEGに載せた後、「目を閉じよ、目を開けよ」という指示に従うだけの簡便な検査であるので、従来の検査に比べて患者の負担が大きく軽減されるものと期待されています。

研究紹介-脊髄誘発磁場計測システム(MSG)-

脳磁計(MEG)の開発で得た技術は、脊髄神経を流れる電流を体の外から非接触で検知することも可能にします。これを利用して横河電機、東京医科歯科大学、首都大学東京と共同で世界初の装置である脊髄誘発磁場計測システム(MSG)を開発しました。

手足のしびれや運動の障害などの症状は、脊髄神経での信号の伝わりの悪いことが原因である症例が多く、従来はこれを確かめるための検査として、脊椎に直接電極を挿入して神経の電気信号を測るという高度な手技を要する方法がとられていました。
脊髄誘発磁場計測システム(MSG)を用いることにより、この信号を体の外から磁気信号として非接触で検知することが可能になり、患者に負担の少ない有用な検査が可能になるとの期待が寄せられています。

東京医科歯科大学では頸椎(けいつい)に異常のある患者41人についての検査を従来の電気計測と併用して行なった結果、93%について診断結果が電気と磁気で一致することが確認されました。

図1は、SQUIDを収めた容器であり、患者は横たわって首の後ろに発生する
磁気が計測できる仕組みです。

図2は、計測した磁気の分布からその源である電流の分布を求めたものです。赤いところは電流密度が高く、青いところは電流密度が低い部位です。


   

研究紹介-小動物生体磁場計測装置-

成人用、小児用のMEGの技術はそのまま、小動物のMEGに活かされ、イギリスのUCLの聴覚研究所(Ear Institute)に設置されています。

マウスやモルモットなどの小動物の聴覚の研究に用いられますが、その脳の大きさはヒトの脳に比べて小さいので、最適なSQUIDを設計し、研究所内のクリーンルームで製作しました。

UCLの聴覚研究所は聴覚機能の再生などを研究テーマとしており、その一環としてSSA(Stimulation Specific Adaptation)と呼ばれる聴覚反応の磁気的な測定を試み、それに成功しています。