第2回 賀戸久先生記念研究会を開催




先端電子技術応用研究所(以下、電子研)主催による「賀戸久先生記念研究会」を119日(金)に扇ヶ丘会館2階会議室で開催いたしました。
電子研では、平成2212月に亡くなられた賀戸久 前電子研所長の業績と高い志を讃え、これを永く記念するために研究会を定期的に開催しており、今回はその第2回として開催されました。
 学内外から賀戸先生と親交の深かった40人程が集まり、研究会は上原弦 電子研所長のあいさつに始まり、以下の講演が行われました。


3名の講演者:左から小柳氏、尾形客員教授、河合教授
 
①小柳正夫先生:
 産業技術総合研究所
「固体冷凍機の最新動向」

②尾形久直先生:
 金沢工業大学 客員教授
「ボトルシップ・テクノロジー(MEG 基本特許)誕生秘話」

③河合淳先生:
 金沢工業大学 先端電子技術 応用研究所 教授
 「遥けくも来つるものかな…
  SQUIDによる地磁気計測へ  の挑戦」

 小柳氏は日本で初めて実用的な薄膜積層SQUID(超伝導量子干渉素子)を作られ、これを電子技術総合研究所時代(以下、電総研)に同僚だった賀戸先生が生体磁気計測に用いた事が、日本における本格的な生体磁気研究の歴史の始まりとなりました。
 電総研時代の賀戸先生との出会い等の思い出を紹介しつつ、マイクロカロリーメータとして使われるTESTransition Edge Sensor)を0.1 Kまで冷却するための固体冷凍機の原理や現状について講演されました。

尾形客員教授が賀戸先生らと共に開発した低温容器は、金沢工大が開発した脳磁計における特徴の一つとなっています。液体ヘリウムの蒸発を抑えつつも、数百本のセンサを容器内で組み立てする仕組みが重要です。尾形客員教授と賀戸先生は、ボトルシップ組み立て技術を応用してこれを実現しました。
今回の講演では賀戸先生が描かれたスケッチやアイディアなどを引用しながら、開発過程のエピソードを講演しました。

河合教授は、昨年度から取り組んでいるSQUIDによる地磁気計測システム(ELFA:極低周波磁場アンテナ)開発について講演しました。
 ELFAは電子研設立当初は脳磁計と並ぶSQUID応用の柱とされましたが、脳磁計の実用化が進むにつれて開発が休止状態となっていました。河合教授は昨年から住友財団からの研究助成と本学の協力を受け、ELFAシステムの開発と運用を再開しました。地磁気計測では、温度や振動などに影響を受けず、数週間から数カ月の長時間の地磁気変動を如何に安定して計測するかがカギとなります。今後もシステムの改良を重ね、賀戸先生の夢の実現に向けて進んでいきたいとのことです。

また、研究会終了後には扇ヶ丘会館近くのレストランに場所を移して懇親会が開催されました。泉屋吉郎法人本部長、ほくりく健康創造クラスター・中川脩一氏、角井嘉美客員教授のあいさつなどがあり、賀戸先生を偲びながら関係者同士の交流を深めました。
(2012年11月21日)
賀戸先生記念研究会終了後、記念写真に納まる参加メンバー

BIOMAG2012 小山講師がYoung Investigator Award を受賞



小山大介(おやま・だいすけ)講師が、826日(日)から30日(木)にフランス・パリのMaison de la Chimieで開催された18th International Conference on Biomagnetism (BIOMAG2012:国際生体磁気学会)で「Young Investigator Award」を受賞しました。
 Young Investigator Award (以下YIA)は学位取得後5年以内の若手研究者を対象として、「Application (応用)」、「Models and Methods(モデルと解析方法)」、「Instrumentation(機器開発)」の3部門で1名ずつに贈られおります。
小山講師は34名のエントリーの中から、Instrumentation部門のYIAを受賞しました。日本を含めてアジアから唯一の受賞となり、授賞式に参加していた日本人研究者たちのテーブルから歓声が湧きあがりました。

これまでYIAは優秀なポスター発表の中から選ばれていましたたが、今回は発表アブストラクトに加えて予め提出した業績リストを使っての審査となりました。脳磁計の開発だけでなく、心磁計や低磁場MRI、ノイズキャンセレーション、脳磁計評価用ファントムの開発など、包括的な研究の推進が評価され、今回の受賞につながることができました。小山講師が電子研に来て3年間の仕事が評価されたこととなり、電子研としても鍛えがいがあったと感じています。



授賞式が行われたパリ市庁舎(Hotel de Ville)は19世紀に建造されたルネッサンス様式とベル・エポック様式が混在する壮麗な建物であり、世界遺産にも含まれています。このような由緒ある場所で受賞できたことは大変名誉なことです。
(2012年10月25日)
 

受賞した小山講師と記念撮影
(右:小山講師、左:樋口教授)


金沢泉丘高校SSHが脳磁計を見学




623日(土)、金沢泉丘高校SSH(スーパーサイエンス・ハイスクール)の生徒15名と教員2名が先端電子技術応用研究所(以下、電子研)を訪れ、脳磁計や研究所施設の見学を行いました。

金沢泉丘高校SSHでは毎年、海外における大学での講義・実習や博物館等の見学をとおして科学技術や語学に対する学習意欲、国際性、将来海外へ出て活動しようとする意識を高めることを目的とした海外研修の取組を行っています。

本年度は82日から9日にかけて米国のニューヨークやワシントンを訪れる予定ですが、今回は本学プロジェクト教育センター所長 松石正克教授のご紹介で、ニューヨーク大学のNYU-KIT共同脳磁研究所を訪問することになり、その事前学習会が天池自然学苑内の電子研で開催されました。


泉丘高校SSHの生徒たちに脳磁計について説明する小山講師
はじめに天池自然学苑の講義室で、電子研の小山大介講師が「NYU-KIT共同脳磁研究所の要」、「脳磁計の仕組み」について解説しました。
今回は特に、「普段学習していることが最先端の技術にどのように生かされているかを説明してほしい」と担当の先生からリクエストがあったことから、高校で習う物理や数式を交えながらのレクチャーとなりました。また、脳神経活動と薄膜技術など、普段は全く結びつかないことが融合することで脳磁計という最先端技術が実現されていることなどをわかり易く説明し、高校での学習が将来につながっていることを生徒たちも認識したとのことです。



続いて場所を電子研内の脳磁計室に移し、実際に脳磁計を使いながら研修における注意点などを説明しました。携帯電話は必ずOFFにする(マナーモードでもNG!)などの実演も行われ、高校生たちも真剣な眼差しで説明に聞き入っていました。

最後の質疑応答では脳磁計に関する鋭い質問もあり、生徒たちの関心の高さがうかがえました。この事前学習を踏まえ、NYU-KIT共同脳磁研究所での研修が実り多いものになることを期待しています。

(2012年10月25日)

アブダビ首長国にKIT/NYU共同脳磁研究所発足

金沢工業大学先端電子技術応用研究所と米国・ニューヨーク大学神経言語学研究所は、UAE(アラブ首長国連邦)アブダビ首長国にKIT/NYU共同脳磁研究所を設立し、その開所式が現地時間
4月23()午後2時30分から共同研究所のあるニューヨーク大学アブダビ校、センター・オブ・サイエンス・アント・テクノロジで行われました。

本学からは石川憲一学長をはじめ、共同研究に 携わる先端電子技術応用研究所の研究員が参加しました
ニューヨーク大学アブダビ校からは副総長であるAl Bloom氏をはじめニューヨーク本校の神経言語学研究所の研究員の方々、またニューヨーク大学アブダビ校と言語学研究分野で共同研究プロジェクトを推進しているUAEユニバーシティの言語学研究者の方々が参加され、合計で40人を超える参加者による盛大な開所式となりました。

このKIT/NYU 共同脳磁研究所については開設前より、在UAE日本大使館の方々にご興味を持って頂き、研究内容やKITとニューヨーク大学の共同研究の歴史について説明行っていましたが、この開所式にも2人の大使館員の方にご参加頂きました。


開所式終了後記念写真におさまる石川学長ら
開所式のあいさつで、石川憲一学長は故賀戸久教授とニューヨーク大学アレック・マランツ教授の出会いについて触れられ、当時のお二人が強い共通の目的意識をもってお互いの分野で協力し合った結果として日本での実用的なMEG装置が完成し、その後も多くの海外研究者との協力により先端電子技術応用研究所がイノベーションを続けてきたことを強調、この地でのKITとニューヨーク大学アブダビ校の連携により新たなるイノベーションがスタートすることを期待している、とのお言葉を頂きました。

当研究所に設置されたMEG装置は、これまで我々が研究を進めた成果を集大成したものです。より良い信号品質を求め雑音低減機能を付加したセンサ駆動回路をはじめ、センサの高機能化を目指したハイブリッド型センサモジュール、データの信頼性を向上させるための記録装置の再設計や被験者の頭部位置検出装置の開発、メンテナンス性を向上させるための周辺機器の改善をしました。
現在64のセンサを実装して計測を開始していますが、この7月にセンサ数を224本へと増設し、より高解像度の計測が行えるようになります。

当研究所ではこの最新のMEGをニューヨーク大学アブダビ校の重要なプロジェクトである言語学の分野における脳による言葉の認識や、文章理解などの謎を探求する重要なツールとしてだけでなく、広く神経科学全般の研究に利用していく予定です。
そのため、現在神経科学分野で一般的に使われている脳波計やアイトラッカ(眼球運動追尾装置)などの検出・記録装置を装備し、MEGによる脳機能計測と同時計測を行うべく準備を進めています。これにより、今まで単独の計測装置で行われてきた計測結果による脳活動の解釈に異なる側面からのデータが加わり、新たな知見をもたらす可能性があります。
また、研究範囲の拡大により、より多くの広い研究分野の研究者との間で議論を深めることが可能になると同時に、新たな脳磁計応用分野の開発が期待されます。

KIT/マックゥェーリー共同脳磁科学研究所           


語学の分野で研究成果

~人は生まれながらにして言語についての論理構造を備えている~



先端電子技術応用研究所は脳磁計の応用研究のために海外の研究所との連携を進めておりますが、その一つであるオーストラリアのマックゥェーリー大学内に設置されたKIT/マックゥェーリー共同脳科学研究所ではヒトの言語認知のメカニズムを解明する研究が進められています。
ここでは小児の時期に言語能力の発達が著しいことに注目し、小児専用の脳磁計を用いて、言語学における「生成文法仮説」すなわち「ヒトは生まれながらにして言語についての論理構造を備えている」という仮説を検証すべく研究を行っています。

図は小児の語学学習に関する国際共同研究の成果を報告したものですが、修学前の小児が文法に誤りのある文章に対して脳の特定の部分が強く反応することが示されています。

また同大学は北京語言大学(日本名:北京言語文化大学)との国際共同研究を通じて、反応部位は母国語が中国語の小児と英語の小児で同じであるなどの知見を得ており、今後のヒトの言語能力獲得のメカニズムの解明に役立つことが期待されています。

研究紹介-脳磁計(MEG)-

脳磁計(MEG) 先端電子技術応用研究所では、高感度な磁気センサの開発とその応用について研究しています。
天池自然学苑内のクリーンルームでSQUIDと呼ばれる薄膜デバイスを製造していますが、これを極低温(マイナス269℃)に冷やして超伝導状態にすることで非常に微弱な磁気を測定できるセンサになります。
この磁気センサを用いると、ヒトの神経や筋肉に流れる電流を体の外から非接触で検知することが可能になり、本研究所では横河電機やイーグルテクノロジー(金沢工大発のベンチャー企業)と協力して、脳機能の研究や診断に役立つ装置としてMEGの実用化に成功しました。

本研究所はMEGの応用研究のために海外の研究所と連携しております。ドイツ連邦物理工学研究所(PTB)、米国メリーランド大学(UMD)、米国ニューヨーク大学(NYU)、豪州マックウェーリー大学認知科学センター(MACCS)、イギリスのロンドン大学(UCL)、フランスの国立中央科学研究所(CBRS)などであります。
UMD、NYU、MACCSではヒトの言語認知のメカニズムを解明するのにMEGが有益であるとして研究を進めていますが、特にMACCSでは小児の時期に言語能力の発達が著しいことに注目し、小児専用のMEGを設置し、アリストテレース以来の長年の疑問「何故ヒトはかくも短期間に言語能力を身につけるのか?」に応えるべく研究を行なっています。


図3は文法に誤りのある文章の呈示に大 きな反応が出ることが分かった例であります。
反応部位は母国語が中国語の小児と英語の小児で同じであるなどの知見を得ており、今後のヒトの言語能力獲得のメカニズムの解明に役立つものと思われます。

また、平成16年度~平成20年度の文科省知的クラスター創成事業では、金沢大学の医学部と共同で、MEGを用いたアルツハイマー型認知症の早期診断プロトコルの開発に取り組みました。アルファ波などに着目して、患者76人、健常者109人の検査を行なった結果、高い正答率で患者と健常者を判別できるとの手応えを得ております。
被験者は横たわって頭をMEGに載せた後、「目を閉じよ、目を開けよ」という指示に従うだけの簡便な検査であるので、従来の検査に比べて患者の負担が大きく軽減されるものと期待されています。

研究紹介-脊髄誘発磁場計測システム(MSG)-

脳磁計(MEG)の開発で得た技術は、脊髄神経を流れる電流を体の外から非接触で検知することも可能にします。これを利用して横河電機、東京医科歯科大学、首都大学東京と共同で世界初の装置である脊髄誘発磁場計測システム(MSG)を開発しました。

手足のしびれや運動の障害などの症状は、脊髄神経での信号の伝わりの悪いことが原因である症例が多く、従来はこれを確かめるための検査として、脊椎に直接電極を挿入して神経の電気信号を測るという高度な手技を要する方法がとられていました。
脊髄誘発磁場計測システム(MSG)を用いることにより、この信号を体の外から磁気信号として非接触で検知することが可能になり、患者に負担の少ない有用な検査が可能になるとの期待が寄せられています。

東京医科歯科大学では頸椎(けいつい)に異常のある患者41人についての検査を従来の電気計測と併用して行なった結果、93%について診断結果が電気と磁気で一致することが確認されました。

図1は、SQUIDを収めた容器であり、患者は横たわって首の後ろに発生する
磁気が計測できる仕組みです。

図2は、計測した磁気の分布からその源である電流の分布を求めたものです。赤いところは電流密度が高く、青いところは電流密度が低い部位です。


   

研究紹介-小動物生体磁場計測装置-

成人用、小児用のMEGの技術はそのまま、小動物のMEGに活かされ、イギリスのUCLの聴覚研究所(Ear Institute)に設置されています。

マウスやモルモットなどの小動物の聴覚の研究に用いられますが、その脳の大きさはヒトの脳に比べて小さいので、最適なSQUIDを設計し、研究所内のクリーンルームで製作しました。

UCLの聴覚研究所は聴覚機能の再生などを研究テーマとしており、その一環としてSSA(Stimulation Specific Adaptation)と呼ばれる聴覚反応の磁気的な測定を試み、それに成功しています。

研究紹介-小型MRI-


一般に販売されているMRIはヒトの全身を撮像の対象をしており、MEGのユーザからは、頭部のみの撮像に適した小型低磁場MRIの開発が望まれています。

本研究所では永久磁石を用いることにより、図1のような超小型の頭部専用のMRIを開発しております。
装置本体と制御コンソールを含めて通常の居室の広さでも十分に設置が可能なコンパクトさです。

豪州のマックウェーリー大学との打合せでは、脳磁計測の結果を図示するためのMRIとしては十分な性能であるとの評価を得ています。

図2はその画質の程度を示したものです。


研究紹介-ELFA(超低周波アンテナ)/フラックスゲート-

近年、地震や火山活動などに関連した電磁気現象の研究が進められています。
岩石に強い応力を加えると圧電効果によって電圧が発生し微弱な電流も流れることが知られておりますが、地震の際にも、地殻内の応力や歪みの集中や開放によって電磁波が放射される現象が指摘されています。

また、地殻変動が大気の電離層を励起して地磁気が変動するといった現象も指摘されておりますが、詳しい事はまだ明確になっていません。

本研究所は、このような低周波電磁気信号を高感度なSQUIDによって精密に計測し、地震研究に役立てることを目的としてELFA(超低周波アンテナ)システムの開発を行っております。

図1は開発中のアンテナ(SQUIDセンサ)と天池自然学苑での地磁気の計測例です。